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「潜水服は蝶の夢を見る」 まばたき20万回 心は空へ

倉田藤子2007/12/19

フランス映画NA
「潜水服は蝶の夢を見る」 (c) Pathe Renn Production-France 3
 「ロックト・イン・シンドローム」という言葉をご存知だろうか。脳こうそくが原因で全身の筋肉が麻痺し、ほぼすべての運動機能が失われる症状である。

 ある日、病院で意識を取り戻したジャン・ドミニク・ボビーは、自分がどのような状態であるか分かるまで、かなりの時間を要した。話す言葉が、医師にも看護師にも伝わらない。身体が少しも動かない。そして、医師から自分の状態を告げられる。「ロックト・イン・シンドローム」。唯一動くのは左目のまぶただけ──。

 ジャン・ドミニク・ボビーは実在の人物である。有名ファッション雑誌「ELLE(エル)」の編集長として、華やかな現場を飛び回る忙しい日々を送っていた。おしゃれでジョークが好きで、周りに人が集まるような人柄だったという。病魔に襲われたのは、本を執筆する話が出版社との間で持ち上がった矢先だった。

 脳こうそくで倒れ、ベッドと車椅子に乗るだけの生活。ジェンは唯一残されたまぶたの動きでコミュニケーションを取ることになる。「はい」は、まばたき1回。「いいえ」は、まばたき2回。言語療法士のアンリエットは、次の段階として、単語をつくるため、使用頻度順にアルファベットを読み上げていく。使いたい文字が読まれたらまばたきすることで、単語を作っていく。

 彼は自分の過去を振り返り、20万回に及ぶまばたきを繰り返し、「潜水服は蝶の夢を見る」を書き上げる。「潜水服」は自由がきかない今の自分。「蝶の夢」は、自由にはばたく想像の世界だ。過去の記憶をたどることで、彼の想像世界はどこへでも行くことができる。
 
 ロックト・イン・シンドロームに陥ったところから彼の経験、記憶、想像を丹念に追い、彼自身のモノローグ(独白)を入れていく。病室内での言語療法士やスタッフとのすれ違いや、信心深い元恋人とのエピソード。モノローグもまた、まばたきで語られたと思うと感慨深い。「潜水服」の中にいる彼の焦燥やいら立ちまでもはっきりと映し出される。ジャン・ドミニク・ボビー自身が見ているかのような映像。観客に彼の内面を想像させる。あまり感傷的にならずに済むのは、彼のウィットに富んだ性格ゆえだろう。深刻な状況にもかかわらず、ユーモアを忘れないあり方は、まさしく彼の“蝶のように自由な想像力”を示しているようだ。

 ジュリアン・シュナーベル監督を、現代美術作家として知っている人も少なくないだろう。1980年代、ニューヨークで起こったムーブメント「新表現主義」を代表する作家として高い評価を受けている。96年に初めて監督・脚本を手がけた映画は、シュナーベルと同じく新表現主義のスターであり、若くして世を去ったジャン=ミシェル・バスキアを描いた「バスキア」だった。2000年、作家のレイナルド・アレナスの一生を描いた「夜になるまえに」を発表。「潜水服は蝶の夢を見る」を含め、ある人の一生を追った映画を撮り続けている。

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「潜水服は蝶の夢を見る」(2007年、仏・米)

監督:ジュリアン・シュナーベル
出演:マチュー・アマルリック、エマニュエル・セニエ、マリー=ジョゼ・クローズ、マックス・フォン・シドー、イザック・ド・バンコレ、エマ・ド・コーヌ

2008年新春、渋谷・シネマライズほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

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