「泪壺」 白磁の壺めぐる 20年越しの悲恋
藤枝正稔2008/02/08


乳がんに冒され、若くして世を去った愁子。最愛の妻の遺言に従い、遺骨から美しい壺を作り上げた夫・雄介。20年間、雄介を思い続ける愁子の姉・朋代。壺を製作中に偶然できた朱色の傷が、愁子の涙にみえる白磁の花瓶「泪壺」。2年後、愁子の墓の前で、雄介は朋代と再会してしまう──。
「泪壺」 予告編 (1分53秒)
学校の体育館。合唱のピアノ伴奏をする朋代。のどかな光景は、彼女に起こる悲劇を微塵も感じさせない。しかし、割れた部分を修復した壺がタイトルバックに映り、不吉な何かを暗示する。がんで入院中の愁子と妻を介護する雄介。なにげない二人の会話や行動に絆を感じさせる。見舞いに来た朋代が部屋に入り、気まずい空気が流れる。高速バスで帰る朋代を見送る雄介。義理の姉と弟なのに、ギクシャクした関係が物語の要である。そして、あっという間に逝ってしまう愁子。駆けつけた朋代は、病室から聞こえる雄介の泣き声を察し、妹と対面せず病院から駆け出す。多くを語らない朋代の演出がうまい。
冒頭に映し出された壺のエピソードから、廃屋となった学校から聞こえるピアノのエピソード。断片的に現在と過去が交錯しながら語られてゆく。原作にない過去の話のシーンで、思春期の微妙な心が瑞々しく描かれる。中盤あたりに始まる男女のドロドロとした関係には、一服の清涼剤となっている。後半、朋代と雄介が再会するところから、運命の歯車が狂い始めてゆく──。
内向的な朋代と対照的に、あっけらかんとした妹の愁子役の佐藤藍子からは等身大の演技を引き出した。二姉妹の間を揺れ動く雄介にはいしだ壱成。繊細な演技が光る。姉妹の父を演じた菅田俊が、昔かたぎで無骨な父親を好演。佐々木ユメカ、蒼井そらなど、ピンク映画を撮ってきた監督ならではのキャスティングセンスを感じた。悲しい物語の終わりに流れる、沢田知可子のエンディングテーマ。心が浄化されるラストだ。
「泪壺」(2007年、日本)
監督:瀬々敬久
出演:小島可奈子、いしだ壱成、佐藤藍子、菅田俊
3月1日、銀座シネパトス、K's cinemaほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
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3.1「泪壺」
