「12人の怒れる男」
シドニー・ルメット監督の名作「十二人の怒れる男」(57)のリメイクである。少年が父親(養父)を刺殺したとする罪状、12人の陪審員のキャラクター設定など、骨格はルメット版を踏襲しつつ、舞台を現代ロシアに置き換え、オリジナルとはまったく趣の異なる作品に仕上がっている。
監督はロシアの名匠、ニキータ・ミハルコフ。もとより力量に不足はない。しかし、あの完璧ともいえるルメット版のリメイクを行うことは、ミハルコフといえどもかなり勇気のいることだったのではないか。
というのも、ルメット版が製作された1957年のアメリカでは、有罪判決すなわち電気椅子による死刑。12人の評決はまさに少年の死命を決するものだった。一方、現代ロシアに死刑はなく、最高刑でも終身刑である。たとえ有罪となっても、少年の生命が奪われるわけではない。同じストーリーで映画化しても、オリジナルのような緊迫感が出ないことは明白である。
そこで、ミハルコフは不利な条件を逆手にとって、独自のストーリーを展開させた。同時に事件の背景にある民族問題や社会問題に光を当て、今日のロシアの姿を鮮やかに浮かび上がらせた。少年をチェチェン人に設定しているところが重要なポイントだ。
映画の冒頭。証拠や証言が出そろい、少年の有罪がほぼ確定したムードの中、一人の陪審員が無罪の可能性を示唆する。ここはルメット版と同じ。ヘンリー・フォンダの役を監督のミハルコフ自身が演じている。この“陪審員2”が投じた一石が波紋を広げ、ほかの陪審員も一人またひとりと有罪から無罪へと転向していく。そのプロセスもオリジナルと変わらない。
だが、最終的に審議が無罪に落ち着こうとした瞬間、あの“陪審員2”の口から今度は「有罪」という言葉が飛び出す。いったい“陪審員2”に何が起きたのか。少年はやはり犯人だったのか。エンディングに向かって二転三転する展開は、まさにミハルコフの独壇場だ。
陪審員が担う責任の重さについて深く考えさせられる。来年5月、日本で裁判員制度がスタートする前に、ぜひ観ておきたい一作だ。
2008年度アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品。
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「12人の怒れる男」(2007年、ロシア)
監督:ニキータ・ミハルコフ
出演:セルゲイ・マコヴェツキイ、セルゲイ・ガルマッシュ、セルゲイ・ガザロフ、アレクセイ・ゴルブノフ
8月23日、シャンテ シネほかで全国公開。作品の詳細は
公式サイト まで。